納豆と聞いて誰もが連想するものといえば、なんといっても糸引きです。
しかし、あの糸がどんな物質からできているかを知っている人は少ないかもしれません。なんとなく「ネバネバは体によさそう」といったところではないでしょうか。
納豆の粘質物、つまり糸の成分は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸が数千個ほどつながったγ-ポリグルタミン酸と、食物繊維の一種であるレバン(フラクタン)がいくつもつながった重合体が複雑にからみ合ったものです。ネバネバの主体はγ-ポリグルタミン酸で、レバンはネバネバを安定させる働きがあるといわれています。
Γ-ポリグルタミン酸は、大豆のたんぱく質が納豆菌に分解されて生まれたグルタミン酸から、また、レバンは大豆の糖分が分解されて生まれた、果糖がつながったもの。
納豆の粘質物は、これら大豆の成分を利用して、納豆菌が生成したものなのです。
では納豆菌は何のためにこのような粘質物を作るのか。
ひと言でいうなら「身を守るため」です。
納豆菌たちは、大豆の表面で分裂し数を増やしていくわけですが、菌数が少ないうちは、粘質物は作りません。
順調に数を増やし、菌密度が高くなっていくと、菌たちは大豆という大地の食料不足を案じて、栄養分の貯蔵に励むようになるようです。もちろん、納豆菌にインタビューしたわけではないので“案じて”や“励む”いう表現はただのイメージですが、納豆菌は、たんぱく質を分解して得たアミノ酸を、今度はγ-ポリグルタミン酸のかたちにかえて身にまとうようになる、と考えられています。
さらに粘質物には水分を保持する力があり、乾燥を防いだり、ウイルスから身を守るバリア機能もあります。もうひとつ、仲間とはぐれないように糸でつながる効果もあるようで、粘質物は、納豆菌にとってまさに万能セーフティーネットといえるでしょう。
この粘質物は、まるで折り尺のようにパタパタと折りたたまれていて、引っ張ると折り目が広がり、のびていく構造になっています。それが納豆の糸があんなにもよくのびるからくりです。
以上、枯草菌を納豆菌たらしめる粘質物について、少し長い特徴の説明でした。
最後に。なんとなく「ネバネバは体によさそう」は正解です。
Γ-ポリグルタミン酸は、腸の中でカルシウムの吸収を促進することが確認されています。
ja (jst.go.jp)