納豆の主原料である大豆自体、栄養価が高い食材として知られています。
よく言われる例えが「大豆は畑の肉」という表現です。そのココロは、「肉の代表的な栄養素であるたんぱく質や脂質が大豆にも豊富に含まれている」というもの。
とりわけ大豆に含まれるたんぱく質量は、豆類の中でもずば抜けて多いのが特長で、じつは大豆が納豆の原材料に定着した理由とも結びつくのですが……それはまた別のページで。
納豆の主原料である大豆自体、栄養価が高い食材として知られています。
よく言われる例えが「大豆は畑の肉」という表現です。そのココロは、「肉の代表的な栄養素であるたんぱく質や脂質が大豆にも豊富に含まれている」というもの。
とりわけ大豆に含まれるたんぱく質量は、豆類の中でもずば抜けて多いのが特長で、じつは大豆が納豆の原材料に定着した理由とも結びつくのですが……それはまた別のページで。
納豆の主原料である大豆は、マメ目マメ科に分類されるダイズ(学名:Glycine max)という植物です。日本や中国、朝鮮半島といった東アジアが原産地と考えられています。
日本では縄文時代中期(紀元前4000年前後)にはすでに栽培されていたことが、考古学的な知見から分かっています。
以来、米、麦、粟、きびとともに五穀のひとつとして食されてきました。日本人にとって五穀は、たんなる食料としてだけでなく、神聖な力をもつ存在として古来より大切にされてきました。たとえば年中行事である2月の節分で大豆を撒くのは、邪気を払う霊力があると考えられてきたからです。節分のほかにも、大豆の霊力に頼んだ儀式が日本各地にあります。
食材としての大豆に話を戻すと、大豆は納豆だけでなく味噌、醤油、豆腐といった日本が誇る伝統食品の主原料でもあります。つまり、大豆なくして日本の伝統食は成り立たちません。
中国では、大豆は生薬としても知られてきました。歴史ある中医学においては、古(いにしえ)より薬効成分に着目し、活用していたようです。多数の生薬をブレンドした漢方薬には、大豆(黒大豆)を発酵させてから乾燥させたものを用いた処方があります。
日本でも大豆の体に良いとされる成分は早くから知られていたようで、平安時代の医術書『医心方』には大豆について具体的な機能性が記されています。
また、奈良時代にとある僧がしたためた役所宛ての請願書には、『脚気のため寝起きも不自由になったため、薬にしたいので大豆を一升ばかり支給してください』といった内容の文面が残っています。
栄養豊富な糧として。
伝統食の原料として。
霊力をもつ神聖な穀物として。
そして万能薬として。
大豆は日本人にとって、幾重もの意味でこのうえなく大切な存在なのです。
たんぱく質(33.8%)
炭水化物(29.5%)
脂質(19.7%)
水分(12.4%)
灰分(4.7%)
大豆(全粒/黄大豆/国産/乾)~「日本食品標準成分表2020年版・八訂」より~
まず特筆すべき“すごいところ”は、は、たんぱく質の含有量です。「大豆は畑の肉」と称されることを紹介しましたが、文部科学省が提供する「日本食品標準成分表2020年版・八訂」を参照すると、食べられる部分100gあたりに含まれるたんぱく質の量は、肉類よりも大豆のほうが大幅に多いことが分かります。
~可食部100gに含まれるたんぱく質の例~
大豆(全粒/黄大豆/国産/乾)…33.8g
牛肉(和牛肉/かた/脂身つき/生)…17.7g
鶏肉(むね/皮つき/生)…19.5g
豚肉(大型種肉/かた/脂身つき/生)…18.5g
栄養価から豆類を見た場合、大きく2グループに分けることができます。
脂質を多く含むグループと、炭水化物を多く含むグループです。上の図のとおり、構成成分の20%近くが脂質である大豆は、前者のグループに属しています。一方で炭水化物の含有量は約30%で、後者のグループの半分程度になっています。
豆類の栄養価の例
ひよこまめ
脂質5.2%
たんぱく質20%
炭水化物61.5%
えんどう
脂質2.3%
たんぱく質21.7%
炭水化物60.4%
落花生(ピーナツ)
脂質47.5%
たんぱく質25.4%
炭水化物18.8%
大豆
脂質19.7%
たんぱく質33.8%
炭水化物29.5%
Carbohydrates=炭水化物は、単糖類を構成成分とする有機化合物の総称です。
昨今、健康維持のために摂取量をコントロールすることが推奨される「糖質」は、炭水化物のうちヒトの消化酵素では消化できない成分を指します。
つまり炭水化物の含有量が低い大豆は、低糖質の食材といるのです。
大豆について、豊富な栄養成分が喧伝される機会は多くありますが、“含まれていない成分”もまた、着目に値する優れた点といえるでしょう。
Protein=たんぱく質は、栄養素と呼ばれる化合物の一種です。20種類のamino acid=アミノ酸が、50~1000個程度、さまざまな配列で結合したものに炭素や酸素、水素、窒素などが加わり、たんぱく質となっています。
たんぱく質の種類は10万種ともいわれていますが、平たくいえば、いずれも“数や配列ちがいのアミノ酸20種類の集合体”なのです。
豆類や小麦、米といった植物に含まれるものを“植物性たんぱく質”と称し、肉や魚介類、卵、乳製品に含まれるものを“動物性たんぱく質”と称します。ちなみに近年、サスティナブルフーズとして注目される昆虫も動物性たんぱく質が豊富な食材のひとつです。
たんぱく質が動物由来か植物由来かにより、どちらが良い悪いということはありませんが、
含まれている必須アミノ酸の種類とバランスにちがいはあります。
強いていえば、現時点では科学的根拠が十分に構築されていないものの、「動物性たんぱく質の過剰な摂取は2型糖尿病等の生活習慣病の発症リスクとなり得るが、植物性たんぱく質は関連がないか、むしろ予防的に働く可能性」を示唆する研究結果が報告されているようです。
(社団法人 日本植物蛋白質食品協会より)
植物性たん白と健康 | 一般社団法人 日本植物蛋白食品協会 (protein.or.jp)参照
たんぱく質や脂質、ビタミン、ミネラルといった、いわゆる必須栄養素のほかにも、食物にはさまざまな化合物が含まれています。その中には健康によいとされる機能をもつものも多く、それらは一般的に“機能性成分”と称されています。すでによく知られている機能性成分のひとつ「イソフラボン」は植物特有の有機化合物で、特に大豆を筆頭としたマメ科の胚芽に多く含まれている成分です。
ポリフェノール
↓
代表的なポリフェノール
フラボノイド/オレウロペイン/リグナン(セサミン)/クルクミン
↓
代表的なフラボノイド
イソフラボン
カテキン
アントシアニン
ルチン
タンニン
イソフラボンは、女性ホルモン「エストロゲン」と分子構造が似ていることから「植物性エストロゲン」とも呼ばれ、ヒトが摂取した場合は似た作用を生じることが分かっています。
エストロゲンは、第二次性徴の発現や月経周期の調節、自律神経の安定など、数々の大事な働きに作用しています。さらに、骨粗しょう症を予防するうえでも重要な働きを担い、近年では、女性の乳がんや男性の前立腺がんの予防が期待できることでも脚光を浴びています。
このように何かと重要な作用を担うエストロゲンですが、じつは二十歳頃をピークに、45~50歳には分泌量が急激に減少します。そこで似た作用を及ぼすイソフラボンが、エストロゲンの働きを補う成分として一目置かれているわけです。
かつてイソフラボンの過剰な摂取について問題提起されたことがありました。摂取のしすぎはかえってよくない作用を及ぼすことが分かったからです。
その際、厚生労働省に発する「食品安全委員会」では、大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全評価について、成人一日あたりの摂取目安量を示すと同時に、基本的な考え方を明示しています。
ただしそれはあくまでも、イソフラボンを強化した食品やサプリメントなどに対する指針であり、伝統的な大豆加工食品については、次のように述べています。
『日本人は、豆腐、納豆、煮豆、味噌などの「伝統的な大豆食品」について、日常の食生活における長い食経験があり、これらの大豆食品を食べることによる大豆イソフラボンの健康への有害な影響が提起されたことはなく、心配する必要はありません。』
まさに“過ぎたるは及ばざるが如し”ということです。
たんぱく質を構成しているアミノ酸。そのアミノ酸が2個~数十個ほどつながった構造のものを“ペプチド”といいます。アミノ酸は20種類ですから、2個からなるペプチドだけでも20×20で400種類もあります。
それぞれのペプチドは、結合しているアミノ酸の種類や数により、神経伝達作用、抗菌作用など、それぞれ個性的な特性をもっています。たとえば、あるペプチドには鎮静作用があり、また別のペプチドは強烈な甘みをもち、甘味料として一般的に利用されています。
大豆由来のアミノ酸が結合したものを“大豆ペプチド”と称します。ほかの食品に含まれるペプチドと同じく、さまざまなアミノ酸が組み合わさった混合物です。
近年の研究によると、大豆ペプチドは動物性たんぱく質やそのペプチドに比べ、脂質代謝を促進する機能が大きく期待できることが明らかになっていることから、メタボリック対策を目的としたダイエット時のたんぱく源として、今後の利用展開が望まれます。
ほかにも血液中の糖分濃度をつかさどるホルモンに働きかけて、血糖値のバランスを良好に保つ機能のある大豆ペプチドがあることも分かっています。
また、そうした機能に併せて、大豆ペプチドには、微生物の発酵促進に対する作用が報告されています。一例ではありますが、大豆ペプチドを含む培地で増殖させたイースト菌(パン酵母)を用いたパン生地は、いったん冷凍しても解凍後にイースト菌の生存率が上がり、発酵力が増すとの実験結果があります。
大豆ペプチドがさまざまな発酵食品の発酵用途に用いられたとき、どのような機能を発揮するかはまだ研究途上ですが、大豆、発酵、微生物……と大豆ペプチドにまつわる言葉を並べると、思わず“納豆”を想起させます。わざわざ添加せずとも大豆ペプチドを有する大豆発酵食品は、理にかなった、先人の叡智の賜物といえるでしょう。
大豆は良質なたんぱく質を多く含むと同時に、低脂肪のヘルシー食材でもあります。
しかし、別のページでは「大豆は脂質の多いグループに分類される」と述べました。
脂質と脂肪。似た言葉同士であり、同義語として使われることも多いのですが、ここでは次のような考えでお話します。
脂質の主要素である脂肪酸は、大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。そのうち後者の不飽和脂肪酸は、食品から摂取する必要のある「必須脂肪酸」とされています。不飽和脂肪酸各種は、動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧やLDLコレステロールを下げるなどなど、さまざまな良い作用をもっているからです。
ほかの豆類に比べると、確かに大豆が含む脂質は多めですが、その脂肪酸組成はというと、飽和脂肪酸が10%強、不飽和脂肪酸が80%ほど。つまり、抑制すべき飽和脂肪酸の割合は低く、それゆえ「低脂肪」とされているのです。
また大豆の脂肪酸のうち半分を占めるリノール酸は、不飽和脂肪酸でありながら過度の摂取は控えたほうがよいとされていますが、大豆食品を普通に食べている分には、何ら問題にはなりません。
たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち、11種類はヒトの体内でも合成することができますが、残り9種類は、食物から摂取するほかにありません。この9種類を「必須アミノ酸」と呼びます。特定の種類をターゲットにして多量に摂取するのではなく、9種類すべてをバランスよく摂取することが、健康維持にとってもっとも大切なことです。
~必須アミノ酸9種~
フェニルアラニン
ロイシン
バリン
イソロイシン
スレオニン(トレオニン)
ヒスチジン
トリプトファン
リジン
メチオニン
これら人体に必須ながら食物から摂取するしかないアミノ酸9種の含有量とバランスを示す点数を「アミノ酸スコア」といいます。アミノ酸スコアは、9種のうち、どれか1種の含有量が突出して高くても、あるいは、8種が高かったとしても、高得点にはなりません。アミノ酸スコアは、もっとも低い値をもとに算出されるからです。 その算出方法は、近年では、国際機関FAO(国連食糧農業機関)が2013年に選定したDIAAS(Digestible Indispensable Amino Acid Score )が最新とされています。単純な含有量だけでなく、体内での消化吸収率が加味されているため、より“現実的な指標”といえるでしょう。
大豆たんぱくに含まれるアミノ酸スコアは最高評価の100です。ほかに100とされるのは、肉類と魚介類、乳、卵などほぼ動物性たんぱく質です。穀類の中でスコアが100とされるものは大豆以外にありません。大豆はそれだけアミノ酸バランスに優れた食材なのです。
~アミノ酸スコアが高い植物性食品TOP5~
第1位 大豆(100)
第2位 ブロッコリー(80)
第3位 じゃがいも(73)
第4位 人参(55)
第5位 トマト(48)